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9月11日(土)は トオルの運動会

うーん、9月といったらやはり運動会でしょう!

実は私には、発表会とか陸上競技会などの行事で、子供の晴れがましい姿を見たことがあまりない。大体そういうときに目立つのは、物怖じしないしっかりした優等生だったり、運動神経バツグンの子どもだったりするのだ。

ある意味で目立ってしまう子どもがいないこともないが、「私はあの子の親ですわよん!」と自慢できるような機会には恵まれていないのだ。主役とか一等賞とか……。

ピアノを習わせても先生と遊んでばかりで何の役にもたたなかったので、発表会の晴れ着姿の写真も当然ない。

まあそれはそれでいいのだが、今年はちょっとちがった。運動会がきらいなタカシとアツシはともかくとして、目立ちたがり屋のトオルが、なんと応援団になったのだ。応援団といったら、ピアノの発表会とはちょっと(全然!)ちがうけれど、一応人前に出て目立つのだ。

うどん粉の中からアメをくわえる競技などとちがって、かっこわるい意味でなく目立つのだ。(いや、今までの全てがかっこわるく目立ったとまでは言いません)

私は正直言って、よくクラスのみんなが許してくれたと思ったが、うれしかった。毎年応援団に選ばれたり、鼓笛で笛以外の楽器になったりしている子どもの親には私の嬉しさは理解できまい。

団長はもちろん、それなりの、人を引っぱっていくことのできるシンちゃんだ。シンちゃんは去年の騎馬戦でトオルが転んだ馬に乗っていたあの強いシンちゃんなのだ。

3年男子のもう一人の応援団員は、ジックン。シンちゃんもジックンも、先輩から借りた変な格好のガクラン姿で応援するという。最近のボンタンは、足首の部分がすぼまっているんですね!。

ボンタンは買うと1万円くらいするというので、親孝行のトオルは、「ミスターバーベキューの道をずーーーっと行った所の店で、3000円くらいの緑色の作業着のズボンを買ってよ」とねだる。1万円はいくら私が嬉しくてもちょっと出せないが(だって運動会だけ着るんだよ〜!)、まあトオルの中学最後の晴れ姿だ、3000円くらいなら奮発しよう!

で、その店を探し当て、電話で問い合わせる。

「あのー、子どもが運動会で着る作業着のズボンをさがしているんですけど……」

「運動会ですか〜。子供さんはおいくつで?」

「(あ、そうか、中学校では体育祭って言うんだった!)中学3年生です……」

「ああ、それならありますよ。色とサイズは…………」

というわけで、トオルを連れて買いに行く。体育祭の2日前だ。もうぎりぎり。

試着してみると、正直言って変だと思うんだけど、トオルは「かっこいい〜」という。ニッカボッカというらしいが、それは私が登山の時に着用したようなニッカスタイルとはほど遠い。正直いってすごくヘンだ。そのダボダボぶりはアラジンよりすごいし、ひざから下がすぼまっていて、店のおじさんによると若者のファッションでもあるというんだけど……やっぱりヘン。

とび職の人が着るんならそれなりにかっこいいかも知れないけど、なんでこれがファッションなの?

まあいいや、トオルが気に入っているから「これください。」である。

そして翌日、体育祭前日のこと。そのニッカだかボッカだかを学校に喜んで持参したトオルであった。

私は嬉しさのあまり実家に電話をして、トオルが今度活躍するの! というと、何と鎌倉から父が泊まりがけで見に来ることになってしまった。

おじいちゃんは来た……だけどトオルは夜になってもなかなか帰ってこない。応援の最後の練習してるのかな〜〜、と思っていたら、先生から電話がかかってきて、「今服装のことで何人かと話し合いをしていますので帰りは遅くなります」という。

えーーーーっ! ボンタンはよくて作業服はだめなのお! 別に不良じゃないしどちらかというとダサイただの中学生なんだから、一日くらいいいじゃありませんか! と私は思ったが、学校では先生の言うことを聞くものなのだ。

なかなか帰ってこない。あんなに喜んでいたトオル。あまり遅いので友達とヤケになって帰りがけに事件でも起こしていないか心配になってきた。トオルは、もちろん自分も悔しいだろうけれど、貧乏なわたしが1日だけのために買ってくれた衣装を着られなくなることを私に対して悪いと思うような子なのだ。

「いいんだよ、そんなこと」と早く言ってやりたい一心で学校まで車で行ってみると、職員室は明るく、下駄箱にはたくさんのスニーカーが上履きの代わりにあった。ということは、大勢の子供達が服装でひっかかったということなのだ。

そのうち知ってる顔の子たちが降りてきた。でもみんな穏やかな顔をしている。ドアを閉めに来た先生も安心したような表情。挨拶すると、「みんなよくわかってくれました」とのこと。

トオルに聞くと、ニッカボッカの他にも、暴走族の服装だの、まあいろいろ問題があったそうである。私としては、「単なるコスチュームじゃないの〜?」 と内心思ってはいたが、まあ学校はそういうものですよね。先生が物分かりが良かったらマズイこともあるんです。

「着れなくなってゴメン」と本人も残念そうであったが、おじいちゃんが家にいたので少しは気が晴れただろう。遅い夕飯は、その作業服を着て食べた。

……さて、体育祭の朝。非常に早起きして登校したと思ったら、じきに帰ってきた。

「剣道のハカマをはくことになった」という。3年男子の一人だけ普通の学生服ズボンではかっこつかないということだろうか。ハカマならいいんだそうだ。……

体育祭。トオルは目立った! 硬派的ないでたちや香りをぷんぷんさせた応援団独特の雰囲気の中、太めの身体でそろいの緑色のシャツにハカマをはいたトオルの姿は、大きいというだけでなくとにかく目立った。

私は広報委員なので、腕章をつけて近くまでにじり寄り、応援合戦の写真も沢山撮った。シンちゃんはしっかり団長していたし、ジックンもかわいい顔して一生懸命応援団してた。そしてあんなに一生懸命なトオルの姿は初めて見た。持ち前の大声を初めて活かせた。持ち前の力で思い切りドラム缶を叩いていた。みんな素敵だった。

騎馬戦では、しっかり団長騎の足となっていた。うん、戦う男は美しい。私は男女差別には最も敏感な部類の人間だし、右翼でも戦争賛成論者でもないが、どうしてもそう思ってしまう瞬間が年に2回か3回はあるんです。

…………………………

……緑組は競技では振るわなかったが、応援優勝を勝ち取った。

私は嬉しかった。トオルが目立ったことがではなく、みんな一生懸命に練習して、いろんなことがあったけれども心をひとつにして、シンちゃんが考えたちょっと下品な踊りも全員で踊っていた、そんなことがなんだかとってもうれしかった。


台風のような体育祭が過ぎ、その後もヒマがあればゲームをしようとするトオルに対して、私は切り札を手に入れた。

「さあて、あれだけ協力してあげたんだから、もう親に悪いという気持ちからでも、受験勉強に専念……できるよねえ〜〜」