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6月18日(金)

7年間乗っていた愛車「シャレード」が最近調子が悪いので、思い切って車を買い換えた。

今度のは背が高くて後ろの座席が広く、しかも前の座席とウォークスルーの「三菱ディンゴ」である。使い勝手もなかなか良いし、何よりGDI適合車だそうだ。

とはいえ、私はシャレードの出足が好きだった。小さな車なのに、なぜか先頭で信号待ちしているとき、隣に(暴走族でない限りは)どんな車がいても、たいがいは我がシャレードが一番速かった。出発が遅くても我がシャレードは粘りで勝つのだ(もちろん私に競争する意思などないが)

一生懸命のところが可愛いクルマであった。

今度のディンゴはどうだろう……。私とぴったり息のあった動きをしてくれるだろうか……。出足の気持ちよさはどうだろう。愛情の感じられるクルマであって欲しい……。

何日か乗り回しては見たが、なかなか二車線信号先頭待ちのチャンスはなかった。

そしてとうとうその日がやってきた。タカシを千葉市の病院に連れて行くとき、国道51号線でそのチャンスがやってきた。信号が青になるとき、スタートの時報が聞こえてきたような気さえした。

(さあ、行くぞ!)

……うん、うん、なかなか快調である。排気量がシャレードより大きいこともあり、余裕で静かなスタート、しかも乗ってる二人が軽いので、クルマは全然苦しそうではない。

もちろんダントツトップで交差点をぬけ、バックミラーに映る車たちは小さく成りゆくばかり。

「このクルマの出足、なかなかいい! ほら、だれも着いてこられない!」

感動するわたしに、それまでだまっていたタカシがひとこと言った。

「それってスピード違反なだけなんじゃないの」

メーターを見ると80キロをさしていた。

みなさん、出足のテストでは交通違反に注意しましょう。


5月21日(金)

5月のある日曜日、夫と息子たちが属する剣道の会で、偉〜い(というか、強いんですな)先生方との合同練習会が催された。

遠いところから足を運んでくださる先生方のために、練習後は少ない予算で酒類の飲み放題、料理食べ放題の会で盛り上がっていただくという。

問題はその料理である。仕出しを頼んでいたら予算オーバーだというので、会員の妻や母に、料理一品持ち寄り令が下された。

料理!

実をいうと私は、日頃料理は全然しないこともないが、考え方として「料理とは、単に材料を煮たり焼いたり炒めたりして味を付けたものである」というおおざっぱな人間なので、私の作る料理には当然名前がない。

味付けが材料と料理方法にマッチしていさえすれば、それは料理の本に載っていなくても立派な料理ではないだろうか。「例えばどんなものなんだ」と言われると書くのも恥ずかしかったりするのだが……。

「ほら、得意料理、ひとつくらいあるでしょう?」

……得意料理は……洗うだけで使える野菜の王様「もやし」と、手でちぎるだけで使えるシメジ、その他冷蔵庫に残っていた肉類やソーセージ類など何でも中華鍋で炒めて、状況に応じて味噌や醤油、場合によってはトウバンジャンやおろしにんにく、ごま油などで味付け……こ、こんなの出せない!

お年を召した大先生は田舎料理がお好きとか。田舎料理ときたら煮物ですか?

土地持ち、畑持ちの人は、「タケノコ料理」だの「フキ料理」、「ゼンマイ料理」など献立名もしゃれている。

に、……煮物。実は私は煮物をよく作る。冷凍の、里芋やにんじんやレンコンがほどよく混ざった素材を使ったりして。それに冷凍のインゲンを最後に加えたりしたら立派なものである。でも冷凍素材って、わかる人にはわかるんですよね〜。

カボチャの煮物も家族は美味しいと食べてくれるが、たくさん煮たら、多分下の方はつぶれて煮崩れて、スプーンで食べるしかないだろう。肉じゃがだって似たようなものだ。

沢山作れる煮物の材料といったら、そうだ、大根しかない。これに、豆腐屋さんのおいしいがんもどきでも入れて煮込めば立派なものではないか!

「じゃ、私は、大根料理を……」

一瞬しら〜とした空気を感じたのは私だけだったろうか。でも「仕事を持っている」「忙しくて家事に時間を割けない」私が作るんだから、大根料理でもいいのだ!というわけで前夜から煮込んで味をしみこませ、日曜日に大きなナベを車に乗せて会場へ。

他の人たちの料理は素晴らしく美味しそうで、高野豆腐の煮物に到っては、芸術作品のようだ。

腕をふるって赤飯を炊いてきた人、手作りコロッケを大量に作ってきた人、酢の物や珍しいつまみを作ってきた人等、主婦の品評会のようだ。私の料理なんか批評もされない。この場合黙殺は優しさなのだ。

みんなの準備する手際も良いなんてモンじゃない。さっさと皿を出し、洗い、すすぎ、ふきんで拭いていく。うちではこのところすっかり食器洗い機にまかせきりなので、洗剤がぬるぬるして気持ち悪く、身体がムズムズさえしてきた。ワケを話して皿運びにしてもらったら、皿洗いの流れ作業がずっとスムーズになったようだった。

「うちなんか未だに乾燥機も使ったことないワ」「へえー、食器洗い機、さーすがー」…………

もういいや、今日は、手抜き専門の、主婦失格の女になっていよう。

こう決意したら気が楽になった。

そして次は盛りつけである。大根に味はしみこんでいるけれど、重なって形が一様でなくなったがんもどき。この私の料理は恥ずかしいから自分で盛ります……。

宴が始まり、会場を借りていられるのもあと2時間(練習が長びいて遅くなったのだ)の、忙しい飲食会。準備も万端、既に並べられていた料理の他に、新たに並べる料理の用意などでお手伝いの女性たちはおおわらわである。

その会に於いては、4時に後片付けまで追われるように、私に唯一できることは「お酌」しかなかった。これは多分誰にも負けないだろう。何故か酔っぱらい(失礼)に酒を勧めるのは得意なのだ。

「はせがわさん、料理や家事はできないくせに、お酌だけは上手なのね」

というひそひそ声が聞こえてきそうだったが、大先生にお酌をし、中先生にお酌をしたら小先生や、剣道の生徒であるお父さん方にもひととおりお酌しないわけにはいかないではないか。お酌というのも結構気を使うのである。ひそひそ話など言われてなかったかも知れないが、主婦としての自分を地に落としたあとはもうそんなことはどうだっていい。役割分担というやつである。適材適所である。

皆いい気分でなんとか宴は終わった。

で、次は後片付けである。時間が押していて、管理人のおじさんは怒りに来るが、怒られたってそれは準備している私たちの責任を越えたところで発生している遅延なのだ。

またまた私は、皿洗いを手際よくすすめる主婦の鑑(かがみ)の人たちのまわりをウロウロしながら皿を片づけたりゴミを捨てたり、怒っているおじさんに笑顔で「おたま」を返しにいったりする(こういうのは得意なのだ。おじさんは機嫌良く受け取ってくれた)。

で、私がいいと言うのに、「いいから洗ってあげるから」と取り上げられたうちの貧相な大鍋(他の人の鍋は新品みたいにピッカピカでした)……。洗い係の人がふたを開けたら、中に生協のだしパックが3個、惨めにしなびてまだ入っていたのを見て一瞬たじろいだその隙に、「いい、いい。うちで洗うからこのまま持って帰る」と、ほとんどひったくるようにしてもぎとり、帰りに理事長夫妻を大根の煮物くさい車でお送りするはめになろうとは……。

よそ行きの料理なんだから、味付けする前にだしパックのかすは取ってしまえば良かったと、この日ほど後悔したことはなかった。