zasiki01.jpg (4862 バイト)   あの時から私は・・・・・ひろお

みなさんはこのような経験をしたことがありますか。今日はみなさんに不思議な世界をご紹介しましょう。

もう20年以上も前の話である。大学で混声合唱団のサークルに所属していた私は、主に宗教音楽としてモーツアルト・バッハ・ブラームスの曲を演奏(合唱)していたこの合唱団を毎日のように楽しんでいた。

大学3年生となりサークルの中心を担う年代となった私は、渉外部長・特別演奏会実行委員長という役を引き受けることになった。案外他人に対して好き嫌いの激しかった私は、お気に入りの同級生と後輩(みんな男)をつれて、5人で長野県は下諏訪にある諏訪アカデミー合唱団を訪ねた。

知名度の低い合唱団が地方公演を行うには地元の合唱団の賛助出演が必要なのだ。

最終の打ち合わせに東京を発ったのは確か8月15日であった。この日が不吉な日だとはよく聞いていたが、やはりそうなのかとこの日以来思うようになった。

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午前中早く出発した私たちは、昼前に茅野・上諏訪の町を歩いてポスター貼りを行った。古い町並みでとても落ち着いたいい町であった。

午後から諏訪アカデミー合唱団を訪問、偶然特別演奏会場である諏訪市民会館で練習をしているところに行き会い、アヴェヴェルムコルプスを一緒に歌わせてもらったのには感動的した。

会場での打ち合わせをしているうちに夜になり、アカデミー合唱団の団長さんの家に招待された。音楽の話・大学の話などしているうちに10時を回ってしまった。団長さんは泊まっていけと言われたが5人では多すぎて申し訳なく、近くの安い宿屋を紹介してもらうことになった。今考えてみればこの遠慮がいけなかったのである。

紹介されたのは下諏訪にある●●旅館というありふれた旅館である。車で20分ほどの宿に着いたのは11時をすぎていた。宿の人には悪い様な気もしたが、ビールを何本か注文し5人の酒盛りが始まった。

ここで、5人を紹介しておこう。

伊藤は1つ年上だが同級生、いつも冷静で歌は下手。ずり上げの伊藤と呼ばれ音程がうまくとれない。ずりあげてやっと正常な音程になる。合唱団にはあってはならない存在である。

中川は同い年の同級。富山県出身で人がよく、まじめ人間で通っている。

曽佐(そさ)は同い年で1学年下。私とはいつも冗談ばかり言い合う気の合う奴だ。私に対してはほとんど本当のことをいわない。ゴリラみたいな顔に似合わずナイーブな面もある。

樋口も同い年で1学年下。私のことを先輩、先輩とくっつき回るかわいいやつだ。そんな5人での小旅行になった訳である。

zasiki04.jpg (2007 バイト)酒盛りと言っても、特別演奏会の最終打ち合わせの話が夜中の2時くらいまで続き、いよいよ寝ようということになった。

二間続きの3畳には中川・樋口が、8畳には私を真ん中に窓際に伊藤、壁際に曽佐がそれぞれ陣取った。

早くも中川の寝息が聞こえ始め私もうとうとし始めた頃、私の布団を引っ張る奴がいた。当然曽佐である。明日の朝早いのに、そして運転するのは私なのに全く迷惑な話である。

「曽佐、やめろよ」と私が言うと、「長谷川さん、僕何もしてませんよ。」ととぼける曽佐。いつも嘘ばかりである。

「明日の朝早いから本当にやめろよ」と言ったが何の返事もなかった。

2〜3分してまた布団を引っ張った。私は腹立たしげに隣の曽佐めがけて飛びかかった。すると曽佐は壁に向かって既に眠っていた。なかなか素早い奴だなと感心し、

「曽佐、本当にやめろよ。明日事故にでも遭ったら大変だからな。」と私も真剣である。

「ぼく、本当に何もしてませんよ。だって壁にくっついて寝ていたでしょ。」と曽佐も少しまじめに答えている。

そんな曽佐だが信じるわけにはいかなかった。いつもの曽佐からしてそのくらいしらばっくれるのは朝飯前だからである。

zasiki05.jpg (2608 バイト)そんなことで騒いでいると、隣の部屋から樋口が起きてきて

「何してるんですか。」と言う。

「樋口、曽佐を何とかしろよ。こいつが布団を引っ張るからねむれやしねーよ。」
と私もまだ冗談半分の口調で言った。

みんなが布団に戻って5分くらいたっただろうか。また布団を引っ張った。このバカと思っていきなり蹴飛ばした。と同時に起きあがって曽佐を押さえつけた。確かに何か白い足のようなものを蹴飛ばしたが、曽佐は壁の方を向いたままうとうとしていた。

「これは変だぞ?」と思い始めた。何かいるのではないか。私の身体から血の気がすーっとなくなっていった。

最初、私は曽佐が冗談でやっていると思っていたが、曽佐・伊藤・樋口は私が芝居をしていると思っていたらしい。しかし、私の血の気がなくなったのを見てみんなも何か変だぞと思ってきた。

特に樋口は「長谷川さんのこんな真剣な顔は見たことがない。本当に何かいるんですか?」とまだ疑っている。そんなに私な信用がないのかとがっくり来た。

「これはおかしい、何かいるにちがいない。」と思い、既に眠っている中川を起こしてすぐにでも東京に帰ろうかと思ったがそれは無理。宿の人を起こして事情を話そうともしたが、紹介された宿に対し値切りの種を作っているようでそれもできなかった。私はいてもたっても居られなくなり体中が震えてきた。いつも冷静な伊藤が変なことを言い出した。

「布団の位置を変えてみようか。俺が寝るから。」

それから4人は布団の位置を変えては寝て、向きを変えては寝て、夜中の心霊実験が始まった。まったくバカな話である。あまりにもこまめにいろいろな実験を繰り返すので、汗ばんできたしいつの間にか恐怖心もなくなっていた。結局ふとんの位置を変えてしまっては異常がないことが判明した。伊藤には何も異常を感じられなかった。

最後に、布団を元に戻し、伊藤が寝ると言い出した。この期に及んでこいつも何考えてるんだろうと思ったが、おもしろそうなので「よし」の言葉で再び実験が開始された。

zasiki03.jpg (3465 バイト)私は横から伊藤を見守ることにした。すると、さすが伊藤君。歌は下手でも冷静な彼はこんなことを言いだした。

「足の先が何か動いているようだ。」

「つま先から重いものがのっかってきた。」

「いま膝まできたぞ。だんだん上に上がってきた。」

「今腹の上だ。胸のところが苦しくなってきた。」

私は、このままでは伊藤が危ないと思い「やめろよ、伊藤!」と布団をはぎ取った。あまりの恐ろしさに皆呆然とし無言だった。

3畳間に普通の布団を運び、4人で眠りについたのは4時も回っていた。朝食ができたというので起きると、中川は「何でみんなでここに寝ているの」ととぼけたことを言っていた。

霊とかお化けとかは興味もないし信じることもなかった。しかし、これ以後、世の中には変な事もあるんだなと思えるようになったよい?経験である。

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それから10年もたった頃だった。家族で信州を旅行した時にこの話をしたら、その旅館に行ってみようということになった。早速下諏訪駅へ行き、駅構内の観光案内所をたずねた。

●●旅館の場所は何となく覚えていたが、とりあえず案内所で旅館の様子を聞いてみることにしたのだ。

「この辺で●●旅館というのがあると思いますが、あそこはまだやっていますか?」

「ええ、やっていますよ。」

「あそこは何か変なことがあるんですか。」

観光案内所のおじさんは、急に真面目な顔になり、

「お客さんも何かあったんですか?」といった。

「いいえ」と家族と顔を見合わせ何もいえずに帰ってきた。

私はこの時から・・・・・・・。

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